弁護士林大佑のブログ(千葉弁護士会)

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(富田林署)接見室からの逃走、誰の責任???

 こんにちは。

 

 秋葉原御茶ノ水で交通事故事件に奮闘する弁護士の林です。

 御茶ノ水・秋葉原の弁護士による法律相談【交通事故】 | 飯沼・林法律事務所

 

 あまり時事ネタは書かないようにしているのですが、大阪府にある富田林警察署からの被疑者脱走事件について今日は書きたいと思います。

 脱走からかなり時間が経っていて時期を逸した気もするのですが、しばしお付き合いください。

 

1 事件の概要

 事件の概要ですが、接見室(面会室)にて弁護士と被疑者が接見後、弁護士側と被疑者側を仕切るアクリル板を押し外して逃走したというものです。アクリル板を押すと隙間が出来る欠陥があり、その隙間から体を押し出して脱走したようでした。

 被疑者は現在も逃走中であり、大阪府警が総力を上げて捜索中です。

 

2 接見室とはどんな部屋か? 

 一般の方には、ほとんど馴染みが無い接見室。

 どのような部屋かというと、大きさは4畳半から6畳くらいで、ちょうど部屋を2つに仕切るように真ん中に透明のアクリル板が設置されています。

 このアクリル板を境に弁護士側の部屋と被疑者側の部屋が分かれていて、それぞれに出入りするためのドアが設置されています。

 

 アクリル板の手前側のドアは、弁護士など接見者(面会者)用です。

 逆に、アクリル板の奥側のドアは、被疑者の出入り用のドアで、ドアを出ても房(分かりやすく言うと、牢屋です)に通じるだけです。

 

 このアクリル板ですが、非常に頑丈に出来ています。私たち弁護士は、覚せい剤使用で現行犯逮捕され、覚せい剤の影響が強く残った状態の人と接見することもあります。 

 覚せい剤の薬効が抜けておらず錯乱状態の被疑者が暴れてアクリル板を叩いたり椅子を投げつけることもありますが、それでもビクともしません。

  ですから、ニュースを聴いた時、「あんなに頑丈なアクリル板が外れたのか!」と非常に驚きました。

 

 そんな接見室ですが、警察署のどこにあるかと言うと、たいていは警察署の2階以上のフロア、そのフロアの奥の方にある「留置管理課」という部署のエリアにあります。

 おそらく被疑者の逃亡を防止したり、検察庁や裁判所から帰ってきた被疑者を効率的・安全に収容するために、警察署の奥の方に設置されているのだと思います。

 

 この留置管理課を担当する警察官を「留置係」と言います。「留置係」は接見の手続きや身柄拘束されている被疑者などの管理を仕事としています(管理という言葉は悪いですが・・・)。

 

3 接見の段取り、手続きの流れ

 次に、多くの方が疑問であろう接見の流れについて説明します。

 

 まず、弁護士の日常ですが、日中は、どうしても打合せ、電話対応、裁判所への出頭など多忙ですから、接見は夜に行くことが多いです。遅いと午後9時や午後10時など夜間に行くことになります。

 

 当然ですが、昼間に比べると夜間の警察署には、一般の方も殆どいませんし、警察官の数も少ないです。ですから、いきなり接見室までズンズン進んでしまうとセキュリティ上の問題があるので、私は事務所を出る際に電話連絡した上で、警察署に到着すると1階受付で「接見に来ました」と伝えます。

 

 そうして受付から「留置係」に私の到着を伝えてもらい、留置係のいる留置管理課へ向かうのです。受付の警察官や1階まで迎えに来てくれた留置係の警察官と向かうことが多いです。

 

  そうして接見室に着くと、手続きに必要な書類を書きます。

 書類を書き終えると、まずは留置管理課の部屋に入ります。ここは普段施錠されており、外からは開けられません。

  留置管理課の部屋に入れてもらうと、いよいよ接見室に入ります。ここも普段は鍵が掛けられています。

 弁護士が入るのは、アクリル板で仕切られた接見室の手前半分になります。

 

 そうして被疑者が来るのを待っていると、アクリル板越しに、ドアが開いて被疑者が連れてこられます。こうして接見出来るわけです。

 このアクリル板は、先程述べたように非常に頑丈で、会話が聴こえるように穴が空いていますが、この穴は小さいですし、この穴から物の受け渡しが出来ないようになっています。

 

 接見が終わると、弁護士は手前のドアから、被疑者は奥のドアから帰ります。被疑者は、さっきまで入っていた房(分かりやすく言うと、牢屋です)に戻されます。

 

 弁護士は接見が終わったことを伝えるために、接見室に設置されたブザーを押したり、携帯用の呼び出しボタン(接見前に渡されます)を押したり、接見室を出た後に留置係に声を掛けたりします。そうして帰宅するのです。

 

 接見終了後、留置管理課に誰もいないこともあります。これは「就寝準備」と言って、その日に身柄拘束いされている全員の寝具を用意したり、洗顔や歯磨きなどをさせているためです。決して多くはない留置係の人数で、大勢の寝具を用意したり、洗顔や歯磨きを効率良くさせるため、かなり忙しそうです。

 

 この時の対応は弁護士によって様々でしょうが、私は大声を出して就寝準備のために奥の方にいる留置係を呼んだり、どうしても誰もいない時は1階の受付にいる警察官に「接見が終わったのですが、留置係に誰もいないので対応を御願いします」と伝えたりしています。

 

4 誰の責任か?

 では、今回の事件、誰の責任でしょうか?

 逃亡した被疑者に一番の責任があることは間違いありません。

 さらに、アクリル板の欠陥を見逃したばかりか、ブザーの電池を抜いてしまっていたり、1時間半も接見室の異常に気付かない留置係や警察署自体に責任があることは間違いありません。言語道断の事態です。

 

 では、弁護士に責任はあるでしょうか?

 まず、「責任」には法的責任と道義的責任の2つがあります。今回の事例で言えば、弁護士が法的責任を負うことは絶対にあり得ません。これは断言出来ます。

 今回の弁護士は、逃亡を手助けしたわけでもありません。眼の前で被疑者を見逃したわけでもありません。

 接見室の管理責任は警察署にありますから、弁護士に管理責任があるわけでもありません。この弁護士が、刑事責任、民事責任、懲戒など職務上の責任も負うことは無いと断言出来ます。

 

 ただ、接見が終わった後、弁護士が、留置係や1階受付の警察官に一声掛けても良かったかな?とは思います。

 

 なぜ声を掛けた方がいいかと言えば、留置管理課に誰もおらず留置係全員が就寝準備をしていると、被疑者が接見室に取り残されてしまうからです。

 つまり「弁護士が接見終了を伝える留置係が誰もいない」=「被疑者が接見終了を伝える留置係もいない」ということになる可能性が高いからです。そうすると、被疑者は接見が終わったのにポツンと接見室に取り残されたままということになってしまいます。

 

 ただ、それはあくまで被疑者が接見室に取り残されることを避けるために留置係や受付の警察官に声を掛けるのであり、被疑者が逃亡しないように警察署を助けているわけではないのです。

 

 今回の事件、弁護士によって様々な意見や考え方があると思いますが、私の考えを書いてみました。

 もちろんニュースで報道された限定的な事実から書いただけですので、私が知らない事実や新たな事実があった場合は、ごめんなさい。

 

 それでは!

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